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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)5403号 判決 1993年8月25日

原告

谷山こと康久晴

ほか一名

被告

松村昌幸

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、各金二六五一万九五二七円及び内金二四一〇万九五二七円に対する平成元年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡した被害者の遺族が加害車両の所有者兼運転者に対し民法七〇九条、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求(一部請求)した事案である。

一  争いのない事実など(書証により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(一) 発生日時 平成元年九月一一日午後一〇時四五分ころ

(二) 発生場所 大阪市平野区瓜破四丁目二番七二号先路上(大阪内環状線、以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(和泉五二は三〇七二、以下「被告車」という。)

(四) 被害者 足踏式自転車(以下「原告車」という。)に乗つた康大輔(昭和四九年三月二日生、以下「亡大輔」という。)

(五) 事故態様 亡大輔が原告車に乗つて本件交差点南詰にある横断歩道を東から西に渡つていたところ、本件交差点に北から南に直進してきた被告車が衝突したもの

2  亡大輔の死亡

亡大輔は、右事故により、頭蓋及び頭蓋底骨折による脳挫傷で死亡した。

3  被告の責任

被告は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条により損害賠償責任を負うとともに、本件事故が被告の前方不注視の過失により発生したものであるから、同人は民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

4  損害の填補

本件事故による損害に対し、自賠責保険から原告らに二五〇〇万円が支払われた。

5  相続(甲一ないし四)

原告らは、亡大輔の実父母であり、亡大輔の損害賠償請求権を二分の一ずつ均等に相続した(法例二六条、大韓民国民法一〇〇〇条、一〇〇九条)。

二  (争点)

1  過失相殺

(1) 被告

本件事故は、信号機により交通整理の行われている本件交差点において、亡大輔が赤信号で横断したため、進入直前まで青信号であつたのでそのまま本件交差点に進入した被告車と衝突したものであるから、被告車の走行道路が幹線道路であることをも勘案すると、亡大輔と被告との過失割合は亡大輔が八割、被告が二割とすべきである。

(2) 原告ら

被告の主張は争う。亡大輔は青信号に従つて横断していたものである。

仮に、黄または赤信号で横断していたとしても、被告車の対面信号が赤であり、被告の速度違反、前方不注視を考慮すると、被告主張の過失割合は相当でない。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  証拠(乙一ないし六、一〇)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件交差点は、南北に延びる片側各三車線で幅五メートルの中央分離帯のある車道の総幅員二七・八メートルで、法定速度による規制のなされた府道内環状線(以下「府道」という。)とほぼ東西に延びる片側各一車線の幅員六・八メートルないし七・三メートルの道路(以下「東西道路」という。)とが交差する信号機により交通整理の行われている交差点であり、本件交差点南詰に府道を横断する横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)が設置されている。府道はアスフアルト舗装された平坦な道路で、本件事故当時乾燥していた。また、本件事故当時付近は、街路灯のためやや明るい状態であつた。

本件交差点の信号周期は、南北の対面信号が青八三秒、黄三秒、全赤三秒、赤五六秒、全赤五秒であり、東西道路が赤八六秒、全赤三秒、青五三秒、黄三秒、全赤五秒である。

(2) 被告車は時速約七〇キロメートルで府道の南行第二車線を北から南に直進して本件交差点に進入し、自転車に乗つて、本件横断歩道を東から西に横断していた亡大輔と、本件横断歩道北側の第二車線上で衝突した。

(3) 本件事故により亡大輔は頭蓋骨骨折の傷害を負い、ほぼ即死状態となり、原告車は前輪が曲損、前輪ステイ曲損、前後輪泥除破損、サドル脱落、前カゴ脱落等大破し、衝突地点から約三五メートル南に亡大輔は転倒し、原告車はさらに七メートル程度南に転倒した。また、被告車は前部バンパー左部分湾曲、前部左側前照灯・方向指示器破損・脱落、フロントガラス破損(特に左側部分の破損が著しい)の損傷を受けた。

本件横断歩道南側には南方向に約五〇メートルにわたり、原告車による擦過痕、サドル、前カゴ、亡大輔の靴、被告車のガラス破片等が散乱しているが、被告車のスリツプ痕は残存していなかつた。

以上の事実が認められる。

2  そこで、本件事故発生時の原告車、被告車の対面信号表示について検討する。

(1) 被告は、供述調書、実況見分調書において「時速七〇キロメートルで走行中、本件交差点五九メートル手前で対面信号の青表示を確認したが、後方車両のヘツドライトが気になりルームミラーで後方を見ていたため、交差点の手前一三・一メートルの地点で本件交差点に進入してきた亡大輔を二八・一メートル前方に発見し、ブレーキをかけたが、二七・二メートル進行して衝突した、信号は当初青表示を確認したのちは確かめていない。」旨供述し、また、本人尋問においても、記憶が曖昧となつている点もあるが、概ね同様の供述をし(以下「被告供述」という。)、交差点進入時における信号表示を確認していない。

(2) 本件事故当時付近を走行していた中村浩は、供述調書、実況見分調書において「被告車の後方の第三車線(中央分離帯寄り)を時速六〇ないし七〇キロメートルで走行中、対面信号が黄となつたのを交差点手前六八・七メートルの地点で確認したが、その時、被告車は、中村と同じ速度で本件交差点手前二〇メートルの第二車線上を走行していた。また、被告車の横の第三車線に並進している車両があつた。被告車が交差点を渡り切る感じがしたので、中村は第二車線に車線変更し、二一・二メートル進行して衝突音を聞いた。対面信号の赤表示で停止したが、前記並進車は信号待ちで停止していたような気がする、衝突前には急ブレーキの音は聞いていない」旨延べ(以下「中村供述」という。)、また同じく、辻岡敦は、供述調書、実況見分調書において「東西道路の西詰停止線で先頭から二台目で赤信号待停止していたものであるが、衝突音を聞いたのは信号待ちしていた時であり、その後五、六秒して対面信号が青に変わつた、ブレーキ音はきいていない」旨述べ、証人尋問においても同様な証言をしている(なお、同人は証人尋問において、衝突音が聞こえてから二、三秒で先行停止車両が動き出したとの証言をしているが、他方で、事故当時の事情聴取での説明に訂正すべき点はなく、五、六秒かもしれないとも証言するところであるから原告ら主張のように、当初の証言から二ないし三秒と認めることはできない。以下「辻岡供述」という。)。

(3) そこで検討するに、被告供述によると、被告車の速度が時速七〇キロメートルであり、本件交差点進入時減速をしていないので、五九メートル走行するのに三・〇三秒を要し、被告が対面信号の青表示を確認した後、直ちに黄表示に変わつたとすれば、前記信号周期によれば黄表示が三秒であるから全赤で進入した余地も否定できないが、中村供述によれば、中村運転車両の位置に照らすと、対面信号が黄表示を示した時には、被告車は本件交差点の手前五九メートルよりかなり交差点に近づいていたと認められ、衝突音を聞いて五、六秒後に東西の対面信号が青になつたとの辻岡供述をも併せ考慮すると、被告車は本件交差点に黄表示で進入したと認めることができる(なお、被告車と並進していた車両が交差点手前で信号待ちのため停止していたとしても、並進車両と被告車の速度が同一ともいえず、また、中村は被告車が交差点を渡り切ると思つたことによれば(信号無視をしてまで交差点に進入すると思うとは経験則に照らし考えられず)、これをもつて被告車が交差点進入時、対面信号が赤表示であつたと認めることはできない。)。

原告康久晴の本人尋問、同李イネ子の捜査段階での供述(乙八の2)における、亡大輔の対面信号が青表示であつたとする供述部分等は右事実に照らし、採用できない。

3  右によれば、本件事故は、被告に、制限速度を一〇キロメートル程度超過し、前方注視を尽くさず走行し、亡大輔を発見後も的確なブレーキ操作をせず(被告はブレーキをかけたとするが、ブレーキ音を聞いた者はなく、本件交差点にスリツプ痕も認められず、この点は信用できない。)、対面信号が黄表示であるにもかかわらず本件交差点に進入した過失が認められ、右過失も重大であるが、亡大輔が夜間、幹線道路を対面信号が赤表示であるにもかかわらず、自転車に乗つて横断しようとした点に落度もあり、かかる事情を総合すると、亡大輔の落度は五割を下回ることはないというべきである。

二  損害額(各費目の括弧内の金額は原告主張額)

1  死亡による慰謝料(二〇〇〇万円) 二〇〇〇万円

前記事故態様、とくに、引き逃げ事案であること、亡大輔の年齢、家庭状況等の事情によれば、慰謝料としては原告ら主張どおり二〇〇〇万円が相当である。

2  葬儀費用(一二〇万円) 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては一二〇万円が相当である。

3  逸失利益(五四〇一万九〇五四円) 二六〇九万九八七八円

前掲証拠によれば、亡大輔は、死亡当時、高校一年(一五歳)の健康な男子であつたから、一八歳に達した時から六七歳まで四九年間にわたつて稼働することが可能であり、また、その間の年間所得は少なくとも一八ないし一九歳の年間平均給与額二三一万六九〇〇円(賃金センサス平成三年第一巻第一表男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計、一八ないし一九歳)を下らないことが推認されるから、これを基礎として生活費を右基礎額から五割控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して亡大輔の逸失利益の現価を算出すると、二六〇九万九八七八円となる。

なお、原告らは、算定の基礎となる年間所得について男子労働者の全年齢平均賃金額を基礎とすべきであると主張するが、将来の収入を的確に判断することは困難であり、全稼働可能期間を通じて平均賃金の収入を得ることができるものということはできないから、右期間を通じて取得することが確実な一八ないし一九歳の男子労働者の平均給与額を基礎として算定した。

(計算式)2,316,900×(1-0.5)×22.530=26,099,878(小数点以下切捨て)

4  合計

右によれば、原告らが相続した損害額(弁護士費用を除く)は、四七二九万九八七八円(各二三六四万九九三九円)となるが、過失相殺により五割を控除すると二三六四万九九三九円(各一一八二万四九六九円)となる。

そうすると、前記のとおり、自賠責保険から二五〇〇万円が原告らに既に支払われているから損害は全て填補されていることになる。

五  まとめ

以上によると、原告らの本訴請求は理由がないので棄却することとする。

(裁判官 高野裕)

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